車高調、サスペンションキットの奥深さ 音鳴り、乗り心地、パフォーマンスについて

朝一番からこんな電話が。ドレスアップで数々の賞を取り、自身も元々ドリフトやレースの経験の長いショップさん。

「購入したデモカーに、〇〇〇(有名ブランド)さんの車高調を取り付けて、しばらくすると、『キュっッ、キュっッ』って音がするんです。走行スタート時はなんともなくて、車があったまってきたころ、段差を越えて一旦音が発生すると、ずっと鳴り続けます。車高調もばらして組みなおし、クルマもダッシュボードまで外して確認したのに、異音の正体がわからない… 車高調の音で無いような気がするけど、純正に戻すと落ち着く… 社長が乗るんで、どうにかしろってウルサイんですよねえ…」

(車種やメーカーさん、ショップ様の名前は大人の事情で伏せます。写真はあくまで参考)

他社製品なのに、当社にわざわざ相談があったのは、店長自身は相当足廻りに詳しい人で、ピロ、ショックには、問題がなかったから。メーカーに連絡すると、当然車高調を一旦返却して、点検になります。そうなったときに、この状態だと、本体自体は異常無しになる確率が高いと直感し、相談いただいたようです。

メタル系の音で無いなら、考えられるのは直巻きスプリングと上下のシートのこすれ。直巻きが縮み、伸びるときはばね自体は回転しようとする力が発生します。その際、上下のシートに何らかのひっかかりが発生して急激にバン!と伸びることがそういう音を発生させることもあり、有名なところではスイフトスプリングさんが、上下の回転用のスラストシートを販売しておられます。

http://www.tohatsu-springs.com/swift/optionparts.html

当社も車高調には同等商品を付属させていますし、更にスムーズにするたに、スゥエーデン製のSKFベアリングも販売しています。

http://silkroad-jp.com/portfolio-2/suspension/sus_skf

これを車高調に装着!

特にストラット形式の足廻りは、ステアリングのすえ切り時などにも、スプリングがスムーズに動けず、音が発生する原因になることがあります。また、それ以上にスプリングのひっかかかりは、スプリングレートがスムーズに発生できなくなり、走行時の挙動の乱れに繋がることもありますから、レース関係の方はもちろん、ドレスアップでも意外に需要が多いパーツです。

とはいえ、音鳴りの原因はさまざまですから、とりあえず、あくまでひとつの切り口です、とお伝えし、営業に出ました。ショップさんのほうが現場で私たちより詳しい場合もありますしね。

お! そうだ! 今日は大阪廻りだから、バランスさんによっていこう! 代表の山崎さんは、だれもが知る日本を代表するサスペンションメーカーで長い間、開発者であり、某有名なサスペンションの産みの親。 サスペンションを製造販売する当社も、色んなヒントをいただくことがあります。 何かヒントあるかも。

っていうか、相変わらず人とクルマだらけ。 とてもいいことですが、業者にはツライ(笑)

今朝の他のショップさんからあった話をしてみました。

「あ~、最近のクルマならありえますねえ。第1に、クルマ自体の音が静かなので、音を拾いやすい。そして、多くの自動車メーカーが居住空間増やしたために、バルクヘッドやマウントが、運転席に非常に近くなったというのが、音鳴りの大きな要因でしょうね。音が鳴り出したというよりも、鳴っている音が聞こえやすくなってしまったということでしょう。

そもそも、鉄の塊のクルマが走れば、色んな音が足廻りを通じて車内に入るのは当たり前。車高調にすることで、アッパーマウントのゴム容量は激減するし、車高を下げるために減衰力やスプリングレートがあがるので、音を吸収する場所がドンドン減っていく。そしてそこに大径ホイルをはめて、タイヤを薄くするのだから、ある意味当然ですよね」

《イッチーさんの愛車。本文とは関係ありません。訪問するたびに何かが変わっています。私の目の保養になっています》

確かに。とはいえ、このあたりの話は業界人なら十分理解しているような部分。

「その話で気になるのは、アッパーマウントとスプリング。アッパーマウントは最近は特に音を吸収させるために工夫がされているので、ピロアッパーにすることで、当然、純正のゴムの塊よりも音が伝わりやすい。でも、意外に見落としているのは、スプリング」

え? どういうこと?

《相変わらずセクシーなオシリ》

「車高を大幅に変えてセッティング出すうえで、ドレスアップでも、レースでも、直巻きスプリングほど便利なものはありません。ただし、横方向の力に弱い。 基本はクルマの脚はまっすぐ上下に動くイメージですが、当然完全垂直ではない。中には相当斜めに動くものなどもあるんですよね。それを直巻きにしてしまうと、上下に移動しているショックを横から蹴るようなことになり、当然スムーズに動けないだけでなく、いろんなトラブルの原因になり、そのひとつが音かもしれません。 あくまで一部の車種ですけどね」

《こんなクルマも入庫するんだ!》

なるほどねえ。 そういえば、純正のスプリングが左右対称になったものや(普通は右巻き+右巻き)、上下に異径になっているだけでなく、縦方向で不思議な形状になっているものも増えています。 自動車の進化にともない、コイルスプリングメーカーも単純に思えるコイルスプリングに色んな魔法をかけているようです。山崎さんの口から「横力」「反力線」「横力キャンセル」だの、呪文がたくさん飛び出していました…(汗)

《上げるのかと思っていたら、下げるようです》

それにしても音鳴りの問題は難しい課題です。自動車メーカーが凄まじい開発費を投入して、色んな走行シーンを想定して、万人受けする乗り心地を考慮して開発された純正ショックアブソーバーとスプリングは、誤解を恐れず言えば、どのアフターパーツメーカーのものよりも完璧なのです。

ただし、それは万人受けする性能。レースでタイムを出すには不向き。だからレースではバネレートを上げ、車高を下げ、減衰力を高め、アッパーマウントやブッシュをピロにし、色んな快適性を排除してでも、車高調にするわけです。

《カメラに入りきらないくらいデカイ…》

そのシーンが、ドリフト、ジムカーナ、ラリー、ダートトライアル、サーキット、のみならず、自分のクルマのドレスアップという個性を求める環境になったことも自然な流れ。 ドレスアップの悪口をいう声もありますが、乗馬だって自分のオリジナル鞍や鞭、アブミなどを替えることで個性を出していたのです。武士だって自分の鎧を改造していたんです。個性を求めることは文化に通じます。自由主義国に生まれた人間として、これを否定することはオカシイ。(人に迷惑をかけちゃダメですが)。

《当社はプラドは縁の無いクルマなので、初めて生脚を拝見》

車高調はそういう意味で、基本的には自分のもつ目的に合わせて、元来バランスの良い純正の、どの部分を強化し、同時にどの部分をあきらめるかという決断を迫られる部品です。

でも、そういいながらも、当社も他社さまも、できるだけそのあきらめる部分を減らせるか、つまり快適性を伸ばせるかを実は日々、研究して悩んで、進化させていっています。またそういう理解度の高いユーザーさんの中には、自分が求める車高が決まっているなら、全長調整式の車高調でなくとも、調整幅の低い方法をあえて選ぶ風潮もあります。

それにしても色んなクルマを対応しているな~、バランスさん。 Zは私の大好物。

いいなあ、黒にあうよなあ。 そしてバランスオートさんの十八番は、シンプルなクルマに超カッコイイホイルを最高の車高で入れるスタイル。

このブロケイドという日本のメーカーのホイルを多用するバランスさん。 ボクも若いころにバランスさんが存在していなら、このホイルは絶対購入しただろなあ。 クルマより先にこのホイルを買って、似合う車を後から買ってだろうなあって言うくらい、ほしいホイル。営業車のトヨタアクアにはムリです… 自分のクルマなんか無いし…

http://www.brocade-jp.com/

はてさて、営業の帰り道、今朝一番に相談のあったショップ様から電話が。

「かなり原因が分かってきましたよ。怪しいのはフロントバンパーのある純正部品、ダッシュのスピーカー裏あたりのある純正部品です。車高調になったことで、ボディがよじれて、それらの部品がはめ込み式なので、外れかけて鳴っている可能性があります。でも100%の確証が無いんですよね。そちらからの情報も元にもうちょっと頑張ってみます」

え… 車高調が原因じゃないかもしれないの?… 原因特定は、エンドレスの底なし沼です…(汗)

そう、奥が深いんです、足廻りに限らずチューニングは。 特に最近の完成されたクルマは、当然自動車メーカーが一つ一つの部品を組み合わせて作っているのではなく、最終、こういうクルマを作ると決めて、そこに合わせて部品を作っているのです。つまり人間の体と同じく、どの部品一つ抜き取っても全体のバランスが壊れてしまうようなつくりなんですねえ。

今日は5月31日、イヨイヨ2018年の半分が終わります。

商品を開発する私たちも、現場でクルマと向き合うショップさんも、みんな頑張ってます!

 

 

 


昨日、FACEBOOKの定期的な発作で、うまく紹介できなかったこちらの記事もよろしくお願いします~

AE86ユーザーのHTSダンパー’ロス’ そしてTOKICO、KYB様との長いお付き合い